FIAT – Panda

 ついに製造が終わることになったパンダですが、10年以上に渡って日本でも愛され続けた、イタリア車のベストセラーです。輸入が始まった当初は、独特のハンモックシートや、軽いボディにトルクフルなOHVエンジンを載せて、ボディと同色のグリルを持った「ブリキの玩具」のような車でした。1988年までキャブレター式だったエンジンも、1989年のCLieからイジェクション化されました。輸入当初からパートタイム4WDをラインナップに揃えていたのも今と変わりません。途中、CVTを載せた右ハンドルの設定も加わりましたが、CVTが壊れると、修理が出来ずアッセンブリーで交換になってしまううえに、信頼性が低かったのも手伝って、今ではあまり市場にでてきません。

 最近では、パンダカップの影響で、スポーツカーとしてチューニングする事が定番になっていますが、90年前後では、パンダの持つ安っぽさと可愛らしさがオーナーにうけていました。特にこのころがパンダに一番似合う色があった時期でもあります。夏の空を思わせる水色「モナコブルー」や、人気を二分した「アイボリー」も、この時期にしか設定されなかった色です。「ライムグリーン」なんて言っていた色もこの時期だけにしかありません。もしかしたらパンダが一番パンダらしかった時代かもしれません。

* * *

 皆さんも良くご存じだと思いますが、モデルごとに追っていきたいと思います。

 まずは代表格のFFパンダ。OHVのエンジンを積んだ初期型に変わって、最終モデルまで続くスタイルで出てきた1000CL。フロントには、プラスチック製の独立したグリルがおごられ、エンジンもSOHCのキャブレターに変わります。ミッションはまだ4速です。ボディのサイドにも、プロテクターモールはまだ付いていません。特徴としては、インジェクションモデルよりも低速トルクがあり、街乗りに適しています。内装はブルーを基調としたファブリックシートで、比較的シックな感じです。パンダカップが始まった当初、値段も一番こなれていて、チューニングしやすいキャブレターということで、沢山の1000CLがベースカーに使われました。今まではダブルサンルーフがはずせなかったパンダでしたが、レースに使うならメタルトップが有利、ということで、メタルトップの人気が上がったのも面白い現象でした。

 1989年のみの販売なのが、半インジェクションのような1000CLieです。エンジン以外はほとんど1000CLと同じ内容です。その後出たのがSieことスーパーieです。ついにミッションは5速になり、パンダの中でも一番人気のボディーカラーが揃っていたのもこの時期です。内装の色もベージュを基調とした明るい色で、一番パンダらしいパンダのような気がします。ボディのサイドにプロテクターモールが付いたのもSieからです。1995年辺りから現行の1100ccエンジンが載るようになりました。たった100ccの違いですが、走ってみてびっくり!低速トルクも増して、今までよりも確実に速くなったのです!!最近ではパンダカップでも1100ccが主流になりつつあるようです。このころからボディ色もメタリック系が多くなり、少し寂しく思ったのは私だけでしょうか。こんな感じで最終モデルのCLXへと続いていきました。

 パートタイム4WDの4×4も、FFパンダの変成に同じく進化を遂げていきます。内装は黒のビニールレザーで、明らかに4WDということを意識した作りでした。ミッションも5速でしたが、性格上最終減速比が低められ、1速はトラックのように発進、即2速へといった感じのローギアなものです。4×4のオーナーも、実際に4WDにして乗った方は少ないのではないでしょうか。パンダの4WDは、基本的にはエマージェンシー用で、通常の速度で長時間走り続けることは出来ません。市場では、FFパンダよりも相場が安いので、こだわらない人や、イタリア車の入門車としてパンダを考えている人には良い選択だと思います。ちょっと背の高い感じが大人っぽく見えませんか?

 他にも、パンダにはレギュラーモデルから発生した特別モデルがあります。

 Sieからはスポルティーバがあります。アルミホイールを履かせ、オリジナルのステッカーが貼ってあるものですが、ブラックのみの販売で、巷では、ブラックが売れないのでそのための対策では?との声もありました。記憶は定かではないのですが、パワーウィンドが付いていたと思います。

 最終モデルのCLXにもスポルティーバが用意されていました。こちらはSieとは違って随分ノーマルとは差別化されていました。やはりブラックのみの販売でしたが、アルミホイール、ルーフレール、レザーステアリング、レザーシフトノブ、ルーフエンドスポイラー、専用サイドモール、ステッカー等、メタルトップのみと徹底したスポーツイメージで販売されました。このモデルにはFF5速以外にECVTのセレクタもあり、意外に人気がありました。五輪マークのステッカーは、ほとんどの人が、納車時に剥がして欲しい、と言われたのには苦笑しました。また、太いプラスチックモールを外したあとに黒のゴムモール(真ん中にレッドのラインが入っている)を付けているのですが、幅が足りなく、元のモールを取り付ける穴が隠しきれていないのはご愛嬌でしょうか。

 4×4にもアルピニスモと言うモデルがありました。フロントには丸型のフォグランプが付き、ホイールは白に塗られ、リアフェンダーにはカッティングシートで作られた(これがいかにも手作りで、涙を誘います!)ステッカーが貼ってあり、パワーウィンドもおごられていました。このモデルは、メーカー製というよりは、日本のディーラーが作った日本独自のモデルのようでした。

 他にもシスレー(これはメーカー製)と言うモデルがあり、内装もモケットの専用シートで、ルーフレールが付き、メーター上には国産車の4WDのような傾斜計がついて、やはりパワーウィンドがついていました。ワインレッドやグリーンメタリックのみの設定でした。

 駆け足で各モデルを振り返ってみましたが、最後はメンテナンスのお話をしましょう。

* * *

 1000CLからSieまでの1000ccパンダの場合、すでに10年以上経っている車もあります。当然、走行距離の少ない固体はありません。8万km以上走っていても当然です。壊れているところもあるでしょう。手にいれてから、どこを治すかを考えて購入して下さい。その時に、致命的なトラブルがないかを確認して下さい。要するに、あとで修理すると高くつくトラブルと言うことです。

 まずボディです。フロントウィンドの廻り、ドアの下、リアクウォーターガラス廻り、ダブルサンルーフのフレームやルーフの接触部分などが代表的なサビの発生場所です。気にならなければ良いのですが、慣れてくると気になってくるものです。それからミッション。FF車の場合、ドライブシャフトのインナーブーツが切れると、ミッションオイルも漏れてしまいます。気づかずに乗り続けていると、ミッションにダメージをあたえてしまいます。走行中足下からゴーゴー音がして、クラッチを切ると音がやんでしまう場合は、ミッションの中を疑いましょう。スピードを上げていくと音も大きくなっていきます。

 エンジンに関しては、オイル下がりや上がりに気をつけましょう。始動時に白煙(水蒸気ではありません)が出て暖まってしまうと消えてしまったり、走行中回転を上げていくと白煙が沢山出てくる場合は注意しましょう。始動時に出る場合は、オイル下がりが考えられますが、軽い症状の場合なら、バルブシールを交換することで完治するときもあります。暖まってから白煙を沢山吹く場合は、オイル上がりの疑いがあります。この場合、ピストンリングやシリンダー内にダメージをうけている可能性があります。こうなると修理代も高くつきます。オイル管理を怠ったり、合わないオイルを使っていたりすると、こういうことが起きてしまいます。中には、オイルがレベルゲージに付いてこない状態で平気で乗っている人もいるくらいです。気をつけましょう。

 インジェクションになってからの持病がエンジン不調です。特に季節の変わり目には必ず起こると思ってもいい現象です。問題はコンピュータの学習能力が低いため、特に外気温度の変わる季節の変わり目に対応が出来ずに起こってしまうので、どうしようも出来ません。症状としては、エンジンのアイドリングが低くなり(インジェクションモデルの場合、アイドリング調整機能はついていない)、ひどくなるとエンジンが止まってしまい、走行不能になってしまいます。症状の軽いときは再始動すればすぐにかかるのですが、そのまま乗り続けると最終的にはまともに走らなくなってしまいます。キャブレター車の場合、何とかごまかしてでも帰ってこられるのですが、インジェクションはそうはいきません。
 対策としては、症状の軽いうちにコンピュータのリセットをすることです。バッテリーのマイナス端子のターミナルを外して、一晩放置してから再度繋ぐのです。完全放電をしてコンピュータをリセットするわけです。実はディーラーのマニュアルにはコンピュータのリセット方法がちゃんと記載してあります!やはり起こるべくして起きるようです。また、ちょっとしたことですが、始動時や停止時に必ずアクセルを煽る癖のある人は絶対やめて下さい。この繰り返しが確実にコンピュータを狂わせてしまいます。始動時にはセルモータだけでエンジンをかけましょう。1分くらいは暖気運転をして下さい。

 パンダの弱点その2!エンジンマウントですが、左右のマウントでエンジンを吊り、ミッションマウントで横置きエンジン特有の前後の揺れを制御しています。もう少し大きいエンジンの車だと、丈夫にトルクロッドをつけて、ロアマウントと一緒に揺れを抑えるのですが、パンダにはついていません。左右のエンジンマウントはエンジンルームからでも見ることが出来ますが、ロアマウントはジャッキアップしないと見えません。マウントの中でも一番酷使されるために、へたるのも一番早いのです。アクセルのオンオフでガクンとショックの大きい場合は要交換です。放っておくと、マフラーのフランジ部分が削れてしまい、支障を来すこともあります。
 こうなると車のせいではなくて、オーナーの責任です。マウント自体は高い部品ではありませんし、工具があれば自分でも出来る作業ですから、思いきって購入後にやってしまったほうが、安心して乗れると思います。また、ロアアームのブッシュも大体のパンダが切れていますが、パンダの場合、ブッシュのみの部品供給ではなくてロアアームごとの交換になります。それでも1本5千円ちょっとですから、マウントと一緒に交換したい部品ですね。

 他には基本的なところですが、プラグやプラグコード、ディストリビューターのギャップやローター、ダイヤフラムやバキュームホースなども異常があると、エンジンの調子がでません。何か調子がいまいちの場合、まずこのへんを見てみましょう。交換が必要なら、思いきって交換して下さい。うそのように調子が良くなります。

 4×4の場合、今までにお話した以外に気をつけなければいけないところがあります。燃料タンクが鉄製なのでタンクの中で、サビがフューエルラインに詰まってしまうのです。走行中に加速をしていくと、ガス欠の症状のようにエンジンが止まってしまいます。すぐに再始動してもエンジンはかかりません。途方に暮れてしばらくして再度エンジンをかけてみると、何事もなかったようにかかってしまいます。燃料タンクの中の不純物が詰まってしまうのです。対策としては定期的に水抜き剤を入れてやりましょう。また、出来るだけガソリン給油時は満タンにして、水分が貯まるのを防ぐようにしましょう。最悪の場合、インジェクションやタンクまで交換して20万円以上かかってしまいます。

* * * * *

 思いつくままに書いてきましたが、元々安い車のところに、現在のブームになる前に購入していた人のメンテナンス不足によるコンディションの低下が、現在のパンダの実状です。高年式のパンダ(主に1100ccになってから)は、変なプレミアムの為に新車とあまり変わらない値段で店頭に置かれ(なによりもディーラーがオークションで高い値段で買い、新車と変わらない値段で販売しているのには呆れてしまいますが)、しょうがないから欲しい人は高い値段で買わされているのを見ていると、正直に言って興ざめしてしまいます。今のプレミアムパンダを、ディーラーは1年後、2年後、いったいいくらで買い取ってくれるのでしょうか?確かに1000ccのパンダは修理を前提として購入する必要があります。高年式なら、しばらくは(と言っても1年~2年でしょうが)安心でしょうが、高すぎる。当分はロッソコルサの店頭にパンダは並びそうにありません。