Alfa Romeo – 75 T.S.

 アルファロメオのファンでも戦前派・戦後派に別れ、戦後派でもノルド系とそれ以降に、またフィアット傘下になってからといろいろなタイプがありますが、私は今までの栄光を引きずらずに確信とチャレンジに満ちたトランスアクスル系が特に好きです。私にとって非常に思い入れがあり、また生まれて初めて手に入れたイタリア車がALFETTA1.8GTでした。気がつけば今までに3台のトランスアクスル系に乗っているのですから。

 今のフェラーリよりも崇高で特別あつらえだったアルファロメオも、戦後量産メーカーへ路線を変更していくわけですが、皆さんご存知の通りただの量産車は作りませんでした。アルファロメオの人達のプライドでしょう。DOHCエンジンも4輪ディスクブレーキも、当時としては最先端の装備を一連の車に与えたのですから。

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 60年代から70年代に移行して、72年にALFETTAが登場します。セダンとしては、やはりアルファロメオらしく少し野暮ったい、お世辞にもカッコイイ!と思えないデザインでの登場でした。しかし、やっぱりアルファロメオで1.8L、DOHC、ツインキャブの心臓を与えられたこいつは、ひとたびエンジンが目覚め走り出すと、その吸気音と排気音で周囲の空気がはじけ飛び、辺りにあの独特のオーラを発し出すのです。

 この車が本領を発揮するのは、中高速域、2速から4速を使うワインディングです。ちょうどイタリアとフランスの境にある山脈を走る、コーナーの連続したステージです。左へ右へステアリングを切り返して、あくまでも狙ったラインをトレースしていく、派手さはないが実は速い!SZまで続くあの乗り味です。頭の中は次のコーナー、その先のコーナーのことでいっぱいになっている、正に走ることに集中しているのです。その瞬間、車とドライバーがひとつになっているのです。

 つくづく思います。アルファロメオの人達はすごい!何でトランスアクスルにしたのか、トーションバーにしたのか、インボードディスクにしたのか……「なるほど!」と思わずにはいられません。

 確かに、あまりにも理想を追い求めたためのデメリットもあります。徹底的に重量配分にこだわったため、クラッチまでも後ろに持っていってしまった。ですからエンジンが動いている以上、常にプロペラシャフトは等速で回ってしまう。当然カップリングの寿命は短くなり、ランニングコスト的には高くついてしまう。クラッチを切ってもすぐには1速には入りづらい、シフトのストロークが長くぐにゃぐにゃだったり、でもそれらのデメリットも、馴れと他のすばらしいメリットによって、さほど問題にならないと思いますが。

 74年から遅れて出たクーペはジウジアーロのデザインで、個人的には量産クーペの中でも3本の指に入る秀作だと思います。左ハンドルの車にはドライバーの目の前に独立したタコメータが配され、セダンとクーペの性格をはっきり分けています。作り手の意気込みがビンビン伝わってきます。

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 72年からのトランスアクスル系も、75周年で世に出た75T.Sで幕を閉じます。やはりコスト的に難しかったのでしょう。私が思うに、当時の車の作り方はこうだったと思います。アルファロメオの人達は、何が自分たちの車たらしめるかをよく知っていました。それはエンジンとその走りです。時代を一歩リードする走り、それこそがアルファロメオがアルファロメオであるための唯一無二の証しです。ですから、予算の中でかなりの部分がここに使われたと思います。そして残った予算の中から内装・外装を仕上げるしかなかった。その為ちょっとちゃちい内装とさびに弱いボディになってしまったのです。今の時代には考えられないことです。

 フィアット傘下になってからはクオリティーコントロールを受け、以前とは見違えるように内外装も良くなりました。その代わり昔の手法で作った車のように、あの独特のオーラは薄くなってしまったような気がするのは私の想い過ごしでしょうか。まあ、私の勝手な想像ですが、結構いい所をついているとは思いませんか。

 「最後の純血アルファ」とか「最後の後輪駆動車」とか75T.Sを一言で表す常套句ですが、やはり一番の魅力は脈々と続く血筋のようなものが確かに感じられるということです。それでも、新しいだけにインジェクションになった扱いやすいエンジンや、実は良く効くエアコンとか、時代にあったアルファロメオでもあります。ここが75T.Sの嬉しいところです。ある程度の信頼性と同時にアルファロメオの走りも味わえる、家族(特に奥様!)にもお許しが得られる、と、熱い走りを忘れていないお父さん(実は私もその一人ですが!)にはもってこいの車です!

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  最後になりますが、私がいつも思っていることがあります。イタリア車はエンジンが一番大事だということです。

 レーシングカーであればパワーがあって一番速ければいいのですが、私達が乗る車はそれよりも大切なことがあると思います。回して気持ちが良い事です。アイドリングでは少しばらついても、回転があがるにつれてばらつきが消えていき、4000回転を超える辺りから吸気音と排気音がアルファサウンドを奏でだし、そこから一気にレッドゾーンへと駆け上がる時にはエンジンの回転が1本の線になっているのです。一切のざらついた感じが消えた、正に最高の瞬間です。ホンダのVTECでもこの感じは味わえませんでした。本当です。75T.Sはこの瞬間が味わえる車です。アルファロメオの人達の、作り手の情熱が五感に伝わってくる、そんな車です。