Lancia Delta – HF Integrale

 ランチアデルタ・・・・・この名前を聞いて人は何をイメージするのでしょうか。ラリーでの勇姿、伝統の中の革新、前人未踏の記録、マルティニカラー、アバルト・・・それぞれの人の中に熱い思いがわいてくる車、私が一言で言うとこんな感じでしょうか。

 70年代に普通の2ボックスカーとして世に出たデルタは1500cc程度のエンジンを載せたただのFF車でした。そんな車にラリーのベース車と言う白羽の矢がたったのです。それからと言うものHFターボ、HF4WD、8V,16Vとラリーで勝つための「ドーピング」が繰り返される事になったのは皆さんも良くご存じのことと思います。ターボで武装し、フルタイム4WDを与えられ、ブリスターフェンダーでトレッドをかせぎ、今となってはベースカーの面影を残しているのはウエストラインから上の部分だけです。

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 そんなデルタに私が初めて乗って思ったのは「案外乗り心地が良い」ということでした。ストロークのあるサスペンションのおかげで段差を乗り越える時にはバシッと一瞬感じますが、サスペンションで吸収されてドライバーに不快な突き上げを感じさせないのです。意外とロールを伴うけれどしなやかな足廻りはデルタの美点であもありますが、同時に設計年次の古さも感じさせてくれるところでもあります。

 8Vで185PS、16Vでは200PS!とせいぜい160PS止まりの車しか乗ったことのなかった私には十分過ぎるほどのパワーで、実際に走らせるとターボ独特の加速感にしばし酔いしれたことを思い出します。今ではインプレッサやランサーが大きい顔をしていますが、あそこまでくると私の手には負えないどころか恐怖さえ感じてしまいます。デルタでも本気で走ったら100パーセント乗りこなす自信はありませんが、限界の一歩手前で乗っている分には、安定して非常に早いコーナーリングを堪能出来ます。

 ノーマルとしてはかなりネガティブキャンバーのついた足廻りはコーナーリングで威力をはっきしますがタイヤが内側から減ってしまい、長持ちしないのが玉に瑕です。限界の一歩手前で乗っていれば終始ニュートラルか弱アンダーで安定しているのですがそこからもう一歩踏み込んでいくと急激にオーバーステアに変わってしまいます。多くの人はびっくりしてアクセルを戻してしまいグリップを取り戻した車は外側のガードレールに向かって・・・こんな感じの事故が多いのもデルタの特徴?です。

 私の知り合いでデルタに乗り継いだ男が言うには「そこからアクセルをさらに踏み込むべし!」とのことですが、そんな状態でアクセルを踏める人がどれだけいるでしょうか!?やはりデルタ乗りは切れてます!!!

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 とかくトラブルの権化のように言われるデルタですが、正直に言うとやはり壊れます。特に悪名高いのがタイミングベルト切れです。タイミングベルトが切れてしまうと規則正しく作動していたピストンとバルブがぶつかってしまいエンジンを壊してしまいます。でも、やたらめったら切れるわけではありません。またベルトの寿命で切れるばかりでもありません。タイミングベルトの廻りには、カムシャフトやウォーターポンプなど色々な部品がありますが、それらが痛んでくるとオイル漏れや水漏れをおこしてしまいます。当然タイミングベルトに付着してしまい急激な劣化を誘発してしまうのです。そんな状態のベルトに急激な付加をかければひとたまりもありません。

 ですから痛い目に遭わないために定期的にベルト廻りを点検すれば良いのです。特効薬はありません、日頃のメンテナンスが物を言うのです。

 ベルト以外にはやはりオイル管理が重要になります。ターボ車のデルタはNA車と違いある程度オイルを消費します。1リットル/1,000km以内であれば許容範囲ですが管理を怠るとエンジン内部にダメージを与えてしまいます。エンジン始動時に白煙を吹く場合バルブシールの劣化などのヘッド廻りのトラブルが考えられます。また、エンジンが暖まってから白煙が出る場合は腰下にトラブルを抱えています。どちらにしても修理代が数十万円かかりますので、購入するときには良くチェックをして必要であれば納車整備でちゃんと修理してくれるのかを確認、約束してもらうことをお勧めします。

 他にはステアリングラックのオイル漏れがあります。国産車と比べると非常に容量の少ないパワステを使っていて、そのうえ狭い駐車場で何度も切り返しをするのですから壊れるのも当たり前かもしれませんが、ラック本体からのオイル漏れは交換するしかありません。部品代が20万円位しますので修理代は20万円以上になってしまいます。予防するには据え切りをしない、ロックトゥロックまでハンドルを切らない、右折待ちの時にハンドルを押さえないなどなるべく負担をかけないようにすることが必要です。パワステオイルのリザーバータンクでオイル量のチェックをして下さい。基本的には減るものではありません。元々パワステと言っても国産車と比べて軽い方ではありませんが、へんだなと思ったら確認しておきましょう。

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 クラッチですが、16Vから油圧式になったためにクラッチマスターシリンダー及びレリーズシリンダーのオイル漏れのトラブルがあります。これが起こるとクラッチペダルが戻らなくなりクラッチが切れなくなってしまいます。そんな現象が出たり、クラッペダル操作時に異音(オバケ屋敷の扉をあけるようなきしみ音)がでるようなら、すぐに点検して下さい。費用も5万円位なので以前に交換した形跡がなければ早めにやっておいても良いと思います。

 燃料系のトラブルも走行不能になってしまうので気をつけたいところです。ガソリン臭い場合、後席の下に燃料タンクがあり上からポンプが収まっているところのパッキンが劣化していることがあります。満タン時に臭い少し走ってガソリンが減ると臭わなくなる場合はそこが怪しいです。また、タンクにプラスチック製のナットを使っている所が良く壊れます。エンジンルームまで続くホースと燃料ポンプとがつながるL字型のジョイント部分が折れるとガス欠状態と同じで、セルモーターは回るがエンジンはかからないと言う事になります。燃料ポンプ本体も交換時期にくると作動時の音が大きくなりますので聞き逃さぬように。

 最後にエンジンですが、ハンチング(回転が安定せずに一定の回転域でかってに動いてしまう)をおこしたり、エンジン始動時にいきなり3,000回転位までアイドリングが上がって落ちてこなかったりすることがありますが、その場合エンジン調整もしくはセンサー類の交換が必要です。季節の変わり目などはおこりやすいので定期的な点検調整をして下さい。

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 確かにトラブルの多い車ですが、日頃のメンテナンスを行うことで最悪の事態を免れることは出来ます。やはり定期点検を欠かさず早期発見が良い状態でデルタとつき合って行く唯一で最善の方法だと思います。