Alfa Romeo – 156 T.S 16V SELESPEED


 

 155の後継者として156が日本に上陸し始めたのが1998年から。

 新しいアルファロメオが出た!と思っていたがすでに7年目を向かえることになります。それまでのアルファロメオと決定的に違うのがオートマチックトランスミッションの設定があることと右ハンドルのみの設定になってしまったこと。155とはまったく正反対のバリエーションに、当時の私には正直にいってにわかに受け入れがたかったことを白状します。

 「イタリア車はエンジンが命!そのエンジンを堪能するのにマニュアルで乗らずにどうする!」「ハンドルは本国仕様がベスト!」っと思っていた私にとって、正規輸入元であるフィアットオートジャパンから突きつけられたものは、今までの自分を全否定されたかのような辛いものでした。

 最初がそんなことだから、ろくに乗りもしないで気がつくと156から気持ちを遠ざけていたような気がします。

 基本的には根っからのアルファロメオ好きで、この世界に足を突っ込むことになったのもアルファロメオに乗っていたからだし、今まで5台を乗り継いできたくらいですから全てが受け入れられなかったわけではなかったんです。

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 ウエッジシェイプの効いた155に対し、往年のアルファロメオを彷彿とさせる丸みを帯びたデザインには、「やられた!」っと思いました。他のメーカーだったら「まねっこ」と後ろ指を差されるところでしょうが、自分達の歴史の中からいいとこ取りをして、現代的にアレンジをしてるわけですから誰にも文句を言われる筋合いはないですよね!

 あのデザインを自分の物にするというだけで、十分に購入する理由になります!

 当初、噂ではGTVのリアの足回りがそっくり移植されるのでは?と言われていました。 マルチリンクサスペンションの足回りが装着されるとなれば否が応でも期待は高まります。

 結果はご存知のように、残念ながら噂は噂で終わってしまいましたが。やはり、コストの面が一番ネックになったのでしょう。

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 2004年末、自分の車として156セレスピードを購入しました。今頃と思われる方もいらっしゃるでしょうが、正規輸入されて7年が経とうとしている現在では、新車で購入された方からセカンド、サードオーナーへと中古車で購入された新しいオーナーへ替わってきています。

 ディーラー保証もなくなった中古車を購入された方が、メンテナンス先としてロッソコルサへおこしになるケースが増えてきました。又、ディーラーネットワークの縮小など、今後こういったケースが増えてくることが予想されることから、あえて過走行の156、それもセレスピードを実際購入して乗ってみることで改めて156を勉強してみようと思ったのです。

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 実際に156を探してみると、なかなか過走行の中古車がありません!市場に出回っているのは5万km以下のものばかり。現在お乗りの方の156もさすがに10万km近く走っている方は少ないと思います。

 そういう意味では10万kmを越えた156の走りは気になるところでは?

 156と一口に言ってもT.Sの5速マニュアルとセレスピード、V6のQシステムと6速マニュアルがあります。後にGTAのV6にセレスピードが加わりました。とかく故障の権化のように言われたセレスピードですが、今回はそのセレスピードを取り上げてみました。

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 ご存知のようにセレスピードは、本来のオートマチックトランスミッションのQシステムと違い、マニュアルミッションのクラッチ操作を油圧で機械に任せたシステムです。

 ですから、実際に乗ると坂道などではクリープしないのでブレーキを踏んでいないと後ろに下がってしまいます。こんなところはちょっと前のCVTに似ています。ある程度アクセルペダルを踏み込まないとクラッチが繋がりません。

 最初はこの感覚がわからなくてギクシャクしますが、半日も乗ればどのくらい踏み込めばクラッチが繋がるかがわかってきます。

 個人的に思い出すのは、教習所の最初の第一段階で半クラッチの練習をした憶えがありますが、マニュアルの場合半クラッチがわからないとうまく動かすことができません。セレスピードもエンストこそしませんが、上手に乗りこなすにはこの半クラッチの感覚を憶えることが重要になります。又、これを会得できればもう半分はセレスピードを自分の物に出来たも同然です!

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 155とは違い、アクセルとスロットルとはアクセルワイヤーでは繋がっていません。フライバイワイヤーという機構で電気信号によってアクセル開度をスロットルに指示を出す仕組みになっています。直結のワイヤー式になれている私には、これも感覚として体に覚えさせる必要がありました。

 このように、最近の車では当たり前の機構も私のようなアナログ人間には直接的操作感から電気信号によるデジタル的操作感を体に覚えさせることこそが、156セレスピードを征服(ちょっと大袈裟ですが、34歳で初めてパソコンを憶えることになった私には本当にそう思えるのです)するための必須事項となるわけです。

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 最近セレスピードを手に入れられたお客様から言われたことですが、「シフトアップ時の間が長い!」で、何とかならないのか?と。

 私も初めてセレスピードに乗ったときは同じ印象を持ちました。「これならマニュアルのほうが早いじゃん!」多分多くの方が同じ印象を持ち、何とかしたいと思っていらっしゃるのでは?

 実際に手に入れて色々試して見ました。

 「CITYモード」で全て機械に任せると本当にかったるい感じになってしまいます。
 「マニュアルモード」で乗るといくらか解消はされるのですが、それでもこちらの感覚とは若干のずれがあるのは同じです。じょじょにシフトチェンジ時の回転数を上げていくと以外にもこちらの感覚に近づいてくるのがわかってきました!5000回転以上までひっぱってからシフトチェンジをしてみると・・・・・速い!

 これは面白い!セレスピードを乗って初めてスポーツカーを感じた瞬間でした!

 ここでようやく気がつきました、セレスピードはスポーツカーなんだ!

 V6のQシステムに対してセレスピードは同じ意味だと思っていたんですね。Qシステムは完全なオートマチック、それをシフトレバーでマニュアル操作もできることでアルファロメオとしての面目を保ってイージーを手に入れたんで、あくまで基本的にオートマ車なんです。

 それに比べてセレスピードはイージーを選択したのではなくて、積極的にスポーツするために存在しているんだと。

 ようするにフェラーリのF1マチックと同じ存在理由なんです!良く考えると、この世で一番早いF1がそうなんですからセレスピードがスポーツカーなのは当たり前と言っても過言ではありません。

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 そう思い、シフトレバーを積極的に操作してしっかり高回転までひっぱってシフトを繰り返していくと・・・何と気持ちよく走ることか!「水を得た魚」というのはこんな感じ!とばかりにアルファロメオらしい走りを提供してくれます!

 シフトアップに比べてシフトダウンは元々評判がよかったのですが、シフトレバーを操作するだけでブリッピングまでして回転を合わせてくれます!

 なんだか自分が上手くなったような錯覚におちいっちゃいます!ヒールアンドトウが出来ないとお嘆きの方、セレスピードがやってくれます!

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 日頃、自分がお客様に言っている「自分の乗り方を押し付けるのではなく、車を理解して上手く扱ってやる」ことを忘れて、「こんなシステムはダメだ!」とか「アルファロメオをオートマで乗るなんて言語道断!」なんて言っていた自分が恥ずかしい!!!

 近代アルファロメオも、昭和のアルファロメオも気持ちよく乗りたいなら同じような付き合い方が必要なんだと改めて認識させられました。


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 そんなセレスピードも使い方を間違えるとトラブルを起こしてしまいます。

 先に言ったようにセレスピードはクラッチ操作が機械任せというだけでマニュアルとなんら変わりありません。オートマ免許でも乗れますが、基本的にはマニュアルが乗れないと操作は難しいといわざるを得ません。

 もちろん、「CITYモード」がありますから物理的には可能ですが「CITYモード」の場合、半クラッチ状態の時間が長くなりクラッチの消耗は早くなります。これはフェラーリのF1マチックも同じで355や360でも「CITYモード」ではクラッチが2万kmもたないくらいです。

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 又、渋滞などで「CITYモード」で走っていると、「マニュアルモード」使用時よりも長い時間クラッチのアクチュエーターに圧がかかりますから、セレスピード事態の故障にも繋がります。

 逆に言えば、壊れる壊れると言われたセレスピードも乗リ方によって壊れたケースもあるんだと認識させられました。と言うことは、そこのところをちゃんと理解してマニュアルモードで積極的に乗ってやれば、セレスピード恐れるに足らないということですよね!

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 足回りに関して言うと、ストロークがやや不足気味だった155の反省からかストロークをタップリとった懐の深い足回りが与えられています。

 ですが日本に正規輸入されている156は全車ロアスプリングとオプションの1インチアップした16インチのホイールにこれもワンサイズ太くされたタイヤを履かされています。せっかくのストロークがこれで台無しになっているのが残念でなりません。

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 予断ですが、ボディにまでスポイラーを装着されてしまい我々日本人はノーマルの優れたデザインを選ぶことはおろかお仕着せのディーラー車を選ぶしか選択肢がないんです。それが全て悪いというつもりはありませんが出来ればノーマル状態で輸入して、少しでも安く販売してくれたほうがよっぽど良いのですが。

 その後個々のオーナーが自分の好みでモディファイを楽しめばいいとは思いませんか?足回りに関しては、スプリングに合った減衰力のショックに交換することである程度改善は出来ると思います。中古車で購入した方はある程度ショックも経たっているでしょうから、思い切ってスプリングとショックがキットになっているような専用部品でそっくり交換をするのも良いです!

 足回りをリフレッシュすると、車が見違えるようになりますからね!一緒にアッパーマウントやバンプラバーも交換してやればベストですね!

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 元々インチアップされて輸入されている156ですが、そのことを知ってか知らずかさらなるインチアップをする方もいらっしゃいます。

 得に17、18インチにアップされた156を購入する場合、フロントのアッパーアームのボールジョイントがガタガタになっている可能性があります。これを交換するにはアッセンブリーでの交換が必要になりますから金額もかかりますので注意が必要です。

 リアの足回りも良く見てください。インチアップされた156の場合、パラレルリンクロッドが曲がってしまっている場合があります。中古車を購入される場合、新車の状態を知らない限り「こんな物かな?」と気がつかずに乗られている場合がありますので、チェックをして不具合が出ていれば修理をしてくれるのかを確認してください。

 せっかくアルファロメオを手に入れたのですから、本来の性能を楽しまなければ損ですよ!

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 セレスピードの操作感と同じくらい言われるのがブレーキです。

 初期のタッチでガクッと効いてしまういわゆる「カックンブレーキ」なんですね。これは最近の傾向でオーバーサーボ気味のブレーキの特徴です。

 以前は国産車の特徴でしたがヨーロッパ車でも同じような感じになってきています。個人的にも苦手なブレーキですが、まずは慣れていただくしかありません。もしくは初期の立ち上がりの悪いパッドに交換するとかそのくらいの対策法でお茶を濁すか。

 ロッソコルサではサーボの効き具合を調整できるような方法を検討していますので、完成しましたらレポートにてご報告させていただきます。

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 ボディに関しては、155のときほどは焼けるようなことは少なくなりました。外装はよいのですが、ボディ剛性はインチアップされた156の場合、ヤレている場合がありますので注意してください。

 どこのメーカーも同じですが、最近の傾向として経年劣化に対してのボディ剛性の低下は思ったよりも早く感じます、それだけ新車時の剛性が良くなっているのですが、なるべくボディ剛性の残っている固体を見つけることが大切ですね。

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 エンジンに関してですが、熟成されたツインスパークエンジンは必要にして十分のパワーを発揮してくれます。

 正直に言うともう少しパワーが欲しい気もするのですが、その分活発に走るために高回転までひっぱってやる必要がありますから、セレスピードを上手に扱うにはもってこいのエンジンだと思います。

 欲を言えばエキゾーストノートに色気がないんですね。

 私も考えていますが、真っ先に交換したい部品かもしれませんね。

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 細かい話になりますが、エアコンは良く効きますが夏場の炎天下の場合もう少し効いて欲しいと思うことがあります。これはデザインを優先させて60年代のような噴出口にしたことで出口が小さくなったこと、それとダッシュボード上の噴出口が遠いため冷気がドライバーに届くまでに温くなってしまうためです。

 これは後から改良されていることからも当初のものはイマイチだったとメーカーも認識しているようです。そのかわり専用の噴出口を設置することで後席にはしっかり冷気が届くようになっています。家族には評判が良いということは、購入を許してもらうためには重要なポイントですよね!

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 大人が乗るアルファロメオとしては、価格もこなれてきた今こそ狙い目と言えそうです。まったく故障知らずといったら嘘になりますが、確実に進歩し信頼性を上げた156なら今まで以上に安心して乗っていただけます。

 もちろん、156に合った扱い方をするということを忘れずに!

 日本でのアルファロメオ最高のセールスを記録した156。遅まきながら一人のオーナーとして、これからその魅力をじっくりと味わってみたいと思います。